来し方行く末、あなたと共に! 第三話

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この物語は、主人公・室戸(むろと)がループを脱出するために、
アニメやマンガの知識を駆使して脱出しようと試みる物語。
暇つぶしに読んでいただけたらこれ幸い。


プロローグ:はじまりは夕暮れと共に・ちーさんの視点

第二話:一年前の今日、放課後の部室にて
第四話:小学生と見紛うばかりの少女


第三話:そして時は現在に戻る


「はぁ……」
 閑散とする部室の中で、一人ため息をつく。
 影のびる時間帯。アニ研部の六畳一間の片隅で、沈みゆく夕日に目を凝らす。校内には、吹奏楽部の寂れた金管楽器の音色がまばらに響き渡り、ひぐらしが遠くのほうで鳴いていた。
 一人。また一人になってしまった。
 この部に先輩はいない。後輩ももちろんいない。同学年では唯一ヤツらと俺が部員だったが、それも今日限りのこと。ヤツらは二次元を吐き捨てて、現実へと旅立ってしまった。
 俺は二次元が好きだ。正確に言うと、二次元の女の子が大好きだ。現実なんてどうでもいい。現実の女に幻想を抜かすなんて考えられない。そして俺はどうにもその考えが強すぎるようだ。だからだろうか、現実を蔑ろにしてきた俺は小学生から中学生の間、友だちが一人もできなかった。もちろん彼女いない歴と年齢は等しい。
 それでもなんとかこの歳まで生きてこれたのは、二次元のおかげなのだ。二次元によって慰められることを知らなかったら、今ごろ樹海で首を吊っていたに違いない。
 高校生になって何を思ったか「友人を作るのもいいかもしれない」と考えてしまい、この部活に入ってヤツらと友人関係を築いたが、とんだ間違いだったようだ。
 振り返れば、その下では必ず告白が成功すると言われる枯れない桜の木の下の笑みを絶やさない猫像の前での誓いには疑問があった。二次元が好きでたまらないなら、あんなこと誓わなくたってよかったじゃないか。それなのに、ヤツらが誓いたいといってきたのは、現実がこちらになびいてきたら二次元をすぐに捨て去る狡猾さと不安がその裏にあったからではないか?
 クソッタレ。誓うんじゃなかった。俺は誓わずとも、最初から二次元にこの身を捧げる覚悟なのに。やっと初めてできた友人という存在にほだされて、自分の信念に反する行いをしてしまった。
 それにしても、ヤツらとだったら分かり合えると思っていた。今まで他人にドン引きされてきたこの二次元に対する思いも、ヤツらだったら理解してくれると。だが、今日でハッキリとわかった。人と人はどうやったって分かり合えない。分かり合えたと思っても、それはただの錯覚で、分かり合えたと思い込んでいるに過ぎないってことを。
 ふと、視線を下に向ける。ガラス越しの風景には夕日に染まるグラウンドにさざめく並木道、それと校門に向かって歩いてゆく二組のカップルが見えた。
 ヤツらだ。
 笑いあい、手をつなぎあい、じゃれあって。ヤツらは、誰よりも幸せそうだった。今この時を生きるもの同士が肌を重ねあわせて、生きていると何度も確かめ合うその姿は、何ものにも代えがたい至上の幸福に他ならないのだろう。
 ため息がでる。見たくもないものを見てしまった。視線を下から上へと移す。夕日が山の向こうに沈んでゆくのが見えた。
 俺は窓ガラスに薄ぼんやりと映る自分の姿に気がついた。学校指定の制服に身を包み、メガネをかけた冴えない男の鏡像は、肩肘をついて頬に手を置きながら、焦点の定まらない腐った瞳で問いかける。
 『お前はいつになったら大人になるんだ?』
 窓ガラスの中に映る半透明の俺が詰問する。世間に対してふて寝をくり返す男の鏡像と、遠くではしゃぐヤツらの姿が重なった。あまりにも、対照的だった。
 視界が滲む。世界で橙色の光が乱反射を繰り返し、まぶたの裏を刺激する。
 無理やり、引きつった笑みを浮かべてみた。チャシャ猫のような、寸分の狂った歪な笑み。嗤わずにはいられない。またもや証明されてしまった。俺にとっての現実は、どう考えたってクソッタレだって。俺の世界は、まるでドドメ色みたいにくすぶっているようだ。
 ヤツらにとってこの世界は何色に見えているのだろう? 世界という名の真白いキャンバスに、何色の油絵具を塗りたくっているのだろう。風のうわさで聞いた話だと、恋するものは、誰だって真白いキャンバスに真白い絵の具を塗るらしい。その際、名状しがたい猫らしきものを頭に乗せながら、蛇口を叩き壊すのが通例だそうだ。できるなら、この俺の蛇口も叩き壊してもらいたい。
 あるいは、キャンバスに桃色吐息を吹きかけて、すべてを卑猥な色で塗りつぶす輩もいるらしい。ヤツらはたぶんその類だろう。性欲の権化に他ならないヤツらは、下半身でしか物事を考えていないのだからそうに違いない。
 まったくもって邪道。けれど、けれど。
 ホントはうらやましいと思っていなかったわけじゃない。ヤツらに彼女ができたことに嫉妬しなかったわけじゃない。
 だけど。二次元を捨てるほどとは、とてもじゃないが思えなかった。




第四話:小学生と見紛うばかりの少女
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