来し方行く末、あなたと共に! 第九話

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この物語は、主人公・室戸(むろと)がループを脱出するために、
アニメやマンガの知識を駆使して脱出しようと試みる物語。
暇つぶしに読んでいただけたらこれ幸い。


プロローグ:はじまりは夕暮れと共に・ちーさんの視点


第八話:画面の向こう側の少女・まや姉の視点
第十話:回想・まや姉の視点


第九話:妹より姉がいい・室戸の視点


 「どうやったって、全ての姉キャラにまつわるこの問題は解決できないでしょ」
 「うーん……じゃあ、現実に別の好きな人を見つけるなんて、どうでしょうか?」
 「無理だね。俺は現実に興味なんてない。まずもって誰がこんな俺なんかに惚れるって言うんだい?」
 「……意外と近くにいるかも、ですよ」
 「いるわけないよ。いるはずがない」
 「……」
 「それに……好きな人を簡単に変えられるなら、こんなに苦しむことなんてないんだ」
 「うむむむ……なんだか、モーレツに間違っているような気がするのですが……」
 「間違ってないよ。二次元に恋して何が悪い。ちーさんだって、現実を見据えるより、占いをしてたほうが楽しいだろう?」
 「もちろんです!」
 「それと同じさ」
 「ち、違うような気がします……」
 「とにかく。十六年前の今日、その土曜日の十九時五十八分に俺は産まれたそうだ」
 「……ずいぶん正確に自分の産まれた時間を把握してますね」
 「ハハッ、なんでだろうね」
 「もしかして映画のタイトルからとってきてませんか? 『その土曜日、7時58分』っていう映画がありましたよね?」
 「正解。ちーさんは映画をよく見てるんだ」
 「からかわないでください」
 「すまない。まぁなんにせよ、俺は確かに十六年前の今日、夕焼け空の下で産まれたそうだ。それで、夕日が沈む前に何とかこの問題を解決できればいいなって思ってたんだけど……やっぱりどうしようもないらしい」
 「あ……誕生日……この場合は、おめでとうとは、言い難いですよね……」
 「正直にいうと、俺もそこんところ微妙なんだ。確かに今日、まや姉と同い年になってしまうのだけれど、明日はなんと待望の『True Heart2 AnotherDays』の発売日なんだ。……だけどもやっぱり、歳はとりたくないないもんだね」
 「老い先の短い人が言うセリフですよ、それ。まだまだ若いんですから」
 「違うよ。俺はあまりに歳をとってしまったんだよ。十七歳に、なってしまうんだ」
 ふと、壁掛け時計を見やる。時刻は十八時五十八分。
 「そろそろ帰宅しないと。妹が待ってる」
 「妹さんが、いらっしゃるんですか? 初耳です」
 「もちろんホンモノの妹だよ」
 「疑ってません、大丈夫です」

     ◇

 俺とちーさんは帰宅の準備を済ませると、下駄箱までつづく廊下を歩きながら話した。
 「……もしかしたら、これも姉キャラに胸をときめかせる原因の一つなのかな……」
 「何がですか?」
 「いやね。どうも妹キャラに今ひとつ魅力を感じないのは現実に妹がいるからであって、姉がいないからこそ姉キャラを登場させた妄想がはかどるのかなって、ちょっと思っただけ」
 「室戸さんの妹さん……私、気になります」
 「俺とは正反対だよ。活力があって人徳もある。さらにスポーツ万能おまけに成績優秀ときたもんだ」
 「妹さんが有能だと、兄である室戸さんは大変そうですね」
 「正直にいって兄としての威厳はないに等しいかな。妹の通知表が記す成績で勝てた試しがないし、その上あいつは眉目秀麗、かなりモテるんだ」
 「うううっ。なんだか聞いてるだけで妬ましくなってきましたよ」
 「俺も妹には嫉妬してばかりだ。でも不可解なのが、妹は誰とも付き合ったことがないってことなんだ」
 「誰か好きな人がいるんですかね。それで、今はその人以外と恋人になるつもりはない、とか」
 「それが正しいならマズイな。妹は俺を狙ってる」
 「……今、さらりとすごいこといいませんでしたか?」
 「やっぱり驚くよね」
 「冗談、ですよね?」
 「確信はないんだけどね。まぁ、信じるかどうかはちーさんに任せるよ」
 「だ、ダメですよ! もしもですけど、妹さんが本当に室戸さんを狙っているのだとしたら、手を出しちゃダメですからね!」
 「大丈夫だよ。妹にはどう頑張っても欲情できないから。姉じゃないと無理だから」
 「そ、それは……安心? ですね?」
 「なーんで妹だったんだろうな……お姉ちゃんだったらな……よかったのに……」
 「妹さんが聞いたら悲しみますよ」
 「それも悪くないな。『お前が妹じゃなくて姉だったらよかった』って妹の前で口に出してやろう」
 「む、室戸さん! そういうの、よくないですよ」
 「普段からちょっかい出されてるのはこっちなんだ。せめてお返しの一つや二つぐらいしてやらんと」
 「でも……」
 「俺がやり返そうとすると、妹はすぐ涙目になって『おにぃ、なんでひどいことするの?』ってほざきやがる。そんなふうに言われると、たちまちやり返す気が萎えちゃって、今までやられっぱなしだったんだ。けど……今日こそは妹が泣くまで仕返しをするのを止めない!」
 「ど、どうしっちゃったんですか? いつにもまして、大人気ないですよ?」
 「どうしたもこうしたも、今日の朝、妹は俺に向かって『アニメなんか見てないで現実を見なよ』っていってきたんだ」
 「……怒るところですか?」
 「怒るよ! そりゃ怒るよ! だって、現実を見つめてると涅槃に行きたくなるから、現実逃避をするためにアニメを鑑賞してるって妹にはいつもいってるんだ。それなのに、現実を見据えろと妹は俺に忠告するんだ。いつもいつも『現実を見ろ、現実を見ろ』って……俺に死ねっていってるようなもんだよ。今日こそはもう許さない、泣かせてやる」
  下駄箱にたどり着くと、上履きを靴と取り替えて、俺たちは裏門へと向かう。
 「ま、待ってください。今日、お友達……いえ、元お友達といざこざがあったから室戸さんは混乱してるだけですよ。それに妹さんは、兄である室戸さんを大切に思ってるからこそ、現実を見ようっていってるんじゃないですか? 妹さんは、室戸さんを傷つけようとしてるわけではないと思いますよ」
 「兄だからこそ言える。俺の妹がそんなに優しいわけがない。あいつの性格はひねくれてる」
 「そ、そんな……あっ、そうだ。今からどこかに行きませんか? すこし頭を冷やしましょうよ」
 「いい提案だね。だけど、妹が家で待ってるから」
 「あっ、ごめんなさい! そうでしたね……」
 「こちらこそ悪いね。今は一刻もはやく妹を泣かせてやりたいんだ」
 「さ、最低ですね……」
 「なんと言われようと、俺は妹を泣かせてやる。じゃあね」
 「はい。さよならです。妹さんに優しくしてあげてくださいね!」
 そういうとちーさんは元気よく駆け出した。その後姿は、小学生の女の子にしか見えなかった。
 さて、俺も急いで帰ろう。
 そしてまや姉が俺のお姉さんでなくなってしまう前に、姉であるまや姉の姿をこの目に焼き付けておこう。


 ああ、まや姉。待ってておくれ。今すぐ行くよ。


第十話:回想・まや姉の視点
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