来し方行く末、あなたと共に! 第十二話

EDIT

この物語は、主人公・室戸(むろと)がループを脱出するために、
アニメやマンガの知識を駆使して脱出しようと試みる物語。
暇つぶしに読んでいただけたらこれ幸い。


プロローグ:はじまりは夕暮れと共に・ちーさんの視点


第十一話:帰宅
第十三話:ループのはじまり・室戸の視点


第十二話:病理・妹の視点


 おにぃ。好き。
 今日は大好きなおにぃの誕生日だ。家に帰ったら、おにぃの大好物をふんだんに使った料理をいっぱい作ってあげよう。私は急いでカバンに机の中の教科書やノートを詰め込む。そして帰宅する前に、もう一度おにぃに『十九時二十分には帰ってきて』と伝えようとした。鳥頭のおにぃのことだから、朝に言ったことを忘れてるかもしれない。
 けれど、あいにくスマートフォンの充電はもうスッカラカンだった。こいつの電池はすぐなくなる。でも大丈夫だ。おにぃが放課後に行く場所なんて熟知している。あのくだらないアニ研部だかなんだかというところで、おにぃはタマを蹴りあげてやりたくなるくらい虫唾の走る気持ちの悪い話を飽きもせずほぼ毎日している。それも友人とも呼びがたい連中と共に。あんなクルクルパーな連中と一緒にいるだけで元からひどいおにぃの脳みそはさらにひどくなってしまう。おにぃには、あんなヤツらとは別れたほうがいいって何度も忠告したのに、おにぃは真に受けてくれない。
 この学校は新校舎と旧校舎に二分されていて、新校舎で生徒たちは授業を受けて、旧校舎は部室棟になっている。私はアニ研部のある旧校舎四階へと向かう。
 その道中、おにぃの友だちなのかどうか疑わしい、例のヤツらと接触してしまった。
 「あれ? あんた……」
 「むろっちゃんの妹さんじゃないか」
 心の中で舌打ちをする。会いたくもない連中と顔を合わせてしまった。
 「こんばんわ。いつも兄がお世話になっております」
 礼をしながら心にもないことをいう。はやくどっかに行ってくれないかな。そんな思いだけが頭を埋め尽くす。
 けれど、ヤツらは私と話がしたいらしい。
 「いやいや、むしろ世話になってるのは俺らのほうっつーか」
 「そんなご丁寧に……顔をあげてよ」
 あんなアホなおにぃに世話されてるとか情けないと思わないのかな?
 顔をあげると、ヤツらの視線は私の胸に注げれているのに気がついた。
 死ね。糞尿をばらまきながら腸捻転で死んでしまえ。
 「あれ? でも妹ちゃんは部活なんてやってたっけ?」
 「少しだけ、兄に用事があったもので……」
 「そうなの?」
 「俺たちこれから部室いくところだから、言伝とかがあるんだったら承るけど?」
 「でしたら……」
 私は手提げカバンを開き、白い便箋を取り出した。これ以上、ヤツらと同じ空気を吸いながら会話をするなんて考えたくなかった。いろいろ質問されるのも面倒なので、おにぃに要件を手紙で伝えることにした。私は便箋に『十九時二十分まで帰宅してね。妹より』と書いて、それを二つに折ると、赤ペンで表面に『ハッピーバースデー』と書いた。
 「これを、兄に渡していただけますか?」
 「ほいよ」
 「お安いご用」
 ヤツらは私から受け取った白い便箋をダンボールの中に入れた。そのダンボールにはおにぃが好きそうなボウフラよりも価値の低いアニメグッズが大量に詰まっていた。
 「それでは、私はこれで」
 「ああ、じゃあね」
 「お元気で」

     ◇

 帰り道、沈みゆく夕日を眺めながら、今までのことをふり返る。
 クズな親が私たちを捨ててどっかに行ったとき、私は洞窟の暗闇に取り残されたようだった。どこを歩いても暗闇が続くだけで、どうしようもない不安で頭がいっぱいだった。その暗闇に光を灯してくれたのがおにぃだった。
 おにぃに比べたら親なんてゴミ以下の存在だ。いや、おにぃ以外の全てがゲロ以下の存在だ。おにぃさえ私の側に居てくれれば私は幸せ。だから、ゴミムシ両親がいなくなってから遠縁の親戚がやってきて「世話をしてやる」などと言ってきたが、もちろん断ってやった。おにぃと一緒にいられる時間を多くするためだ。
 入り組んだ裏路地へ進む。ここは普段から人通りが少ないので、私は気に入っていた。周りに誰もいないのを確認する。そして純潔を守り続けるおにぃに相応しい真っ白なブリーフをカバンから取り出して、それを鼻で嗅ぎながらおにぃを思う。
 ああ、おにぃ。愛しのおにぃ。私はおにぃの匂いを嗅ぐだけでイヤなことは全部忘れられる。いやらしい視線を送ってくる虫ケラみたいな教師のことも、妬ましさや羨望の入り混じった感情を向ける低能な同級生たちのことも。
 「花園」に手を添える。私はその「花園」を優しくこすりはじめた。
 おにぃ、私はおにぃが好き。おにぃ、私はおにぃが好き。おにぃ、私はおにぃがだぁい好き。
 何気ない仕草が好き。偏食なおにぃが好き。女装するおにぃが好き。へたっぴな歌をうたいながらお風呂に浸かるおにぃが好き。高校生になっても白ブリーフをはいてるおにぃが好き。恋人のいないおにぃが好き。いつも失敗ばかりのおにぃが好き。頭を優しくなでてくれるおにぃが好き。
 おにぃのありとあらゆる行動が大好き。
 学校の授業についていけないからヤケになってふて寝を始めてしまうバカなおにぃが好きだ。宿題を見せてくれる友だちがいなくて『明日、先生に怒られる……』と顔を真っ青にしているおにぃを見てると心がおどる。
 自分は何者にもなれない、なんの才能もないと嘆いているおにぃが好きだ。私の成績表や才能の多さにおにぃが自分を省みて涙目になるときなど胸がすくような気持ちだった。
 学校の教室で誰も話す人がいないから寝たふりをするおにぃが好きだ。周りの人にクスクス嗤われてるのに自分は完璧に寝たふりができていると思い込んでる様など感動すら覚える。
 友だちがいないから休日にすることがなくてボォーっとしてる様などもうたまらない。血がつながってると想像するだけで虫唾の走るあの母親に仕込まれた女装癖を未だに払拭できずに、ときたま女装しているおにぃの目の前に現れて、おにぃの無残な顔がさらに無残に歪んでいくのを見るのも最高だ。
 哀れなおにぃが「現実の女は好きじゃない」というので「現実の女に好かれないからそんなこといっちゃうんでしょ?」と言ったとき、うまく反論できないおにぃへ、そのままさらに畳み掛けるように反論して、おにぃの自尊心を粉砕したときなど絶頂すら覚える。
 おにぃ、私はそんなダメダメなおにぃが好き。私がいなかったら、料理も掃除もろくにできずまともに生きていけない、けれども私だけのために家事を頑張って手伝ってくれる、誰よりもトンマで誰よりも尊いおにぃが好き。
 だけど最近、どうにも腹が立つ。私はおにぃを愛しているのだと自認したときから、おにぃがアニメやゲーム、ライトノベルを鑑賞しているのがむかつくようになった。
 現実逃避なんて許せない。もっと私だけを見てほしい。現実から目を背けてしまっては、現実にいる私を見てくれる時間が少なくなってしまう。
 おにぃに何度も何度も止めさせようとした。私だけを見てほしい。おにぃには私さえいればそれで充分だ。でもおにぃはいっつも笑って話をごまかしてしまう。真剣に私の話を聞いてくれない。ときには、小賢しい屁理屈でその場をはぐらかしてしまう。おにぃごときが理屈をいうなんて生意気だ。ウジ虫以下の下衆が何を口にしたところで人になれるわけがない。それなのにゴキブリおにぃの分際で、人が人である所以の理屈を口に出すなんて、おこがましいにも程がある。
 なぜおにぃは私の気持ちに気づいてくれないのだろう。こんなにも積極的にアプローチをしているというのに。たまにおにぃを本気で殺してやりたくなる。私がいつもカバンに備えている痴漢撃退用の七つ道具の一つの包丁で、おにぃの腹を十文字に切り裂いてしまいたい。そんな衝動に駆られるくらい私は真剣なのに、おにぃはいっつも不真面目に私の言葉を聞き流してしまう。話をするときも、目を合わせて話してくれない。どうして? 妹だから? ときどき、私はおにぃよりはやく生まれてくればよかったと思うのだ。私がお姉さんだったら、おにぃは私の話を真剣に聞いてくれるはずだ。そうなれば、私が「おにぃ、大好き」というたびに、おためごかしなおにぃが「ん? なにかいったか?」とわざと聞こえないふりをするのを止めてくれるはずだから。
 さらにおにぃには文句がある。おにぃのおちんちんはおかしい。現実にいもしないクソ女どもに欲情するなんていかれてる。それだけなら矯正の余地はあるけど、私の裸をみてもおにぃのおちんちんは何も反応していなかった。夜におにぃのおちんちんを弄ってみてもついぞ反応することなんてなかった。おにぃは私の目の前でおちんちんを固くしたことは一度もなかった。おにぃがおちんちんをカチカチにさせるのは、ヘドが出るような二次元の前においてのみ。私を差し置いて、二次元にいるファッキンコックローチのようなアバズレなんかにおちんちんを固くするなんて。これはもう病気だ。そうとう重症なんだ。現実のおっぱいを見て固くならないなんて、おにぃは本当に狂ってしまったんだ。
 かわいそうなおにぃ。私がはやくなんとかしてあげないと。でもいったいどうすればいいんだろう? おにぃを不能にしてしまったのは何? 私の、私だけのおにぃを。こんなふうにしてしまったのは誰?
 ――――――――――ああ、そうだ。
 すべてはあれが悪いのではないか。諸悪の根源。おにぃにとっての心の支え。今の今まで、おにぃ唯一のフナムシのような趣味だから処分などしなかったけど、今日こそすべてをギタギタにしてやる。おにぃは私だけを愛してればいい。おにぃには私だけいれば充分なはずだ。愛さえあれば関係ない。これも全て、おにぃのためなんだから。そう、今日はおにぃが真人間への第一歩へと踏みだすための、私を「好きだ」といってくれるおにぃに生まれ変わるための、誕生会を開こう。例えおにぃに心の支えがなくなったとしても、私がそのかわりになってあげればいい。
 あれ? おかしいな。この世に存在しない女にこんな感情を抱くなんて、私も狂ってしまったのかもしれない。でもあれさえなくなれば、全ては正常になるはずだ。
 いつしか、あの売女どもの跋扈する二次元に、とくにまやとかっていうクソビッチに、私は殺意を覚えるようになっていた。


 そう、おにぃは。おにぃは私だけのものだ。


第十三話:ループのはじまり・室戸の視点
関連記事
web拍手 by FC2
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
この記事のトラックバックURL