来し方行く末、あなたと共に! 第十五話

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この物語は、主人公・室戸(むろと)がループを脱出するために、
アニメやマンガの知識を駆使して脱出しようと試みる物語。
暇つぶしに読んでいただけたらこれ幸い。


プロローグ:はじまりは夕暮れと共に・ちーさんの視点


第十四話:宇宙的恐怖
第十六話:もしもこれが現実ならば


第十五話:止まらない吐き気


 気がつくと俺は床に吐瀉物をぶちまけていた。
 「む、室戸さん! 大丈夫ですか!?」
 「ちー……さん……」
 ちーさんが。なぜここに。
 疑問が一瞬だけ脳裏をかすめたが、そんなことすぐにどうでもよくなった。俺はあまりの気持ち悪さにうずくまる。
 「また吐きそうになったら、そのまま床に吐いてしまっても大丈夫ですよ。私があとで片付けておきますので」
 ちーさんの小さな手が、俺の背中を心地のよいテンポでさすってくれる。その優しさに、俺は慟哭する寸前だった。先ほどまで見ていた悪夢に、体も心も凍ってしまいそうだった。そんな冷えきった心身を、ちーさんは優しさに溢れたぬくもりで暖めてくれる。それがあまりにも、心地いい。
 「室戸さん、ごめんなさい……まさか、こうなるとは思わなかったです。今日やった占いは……前にも失敗してたんです。でも……今日こそ、成功するかなって……。それに、その占いが成功すると、願いが叶うと、聞いていました……。でも……ごめんなさい……。占いは、失敗してしまって……室戸さんが、こうなるなんて、思ってもいなくて……。ごめんなさい……。本当に、ごめんなさい……」
 ちーさんは、いつの間にか静かに嗚咽を漏らしていた。さする手を止めようとはせず、けれどもすがるように。
 「室戸さん……我慢しなくてもいいですよ……? 気持ちわるいの、ぜんぶ出してください……」
 俺は泣いた。その理由は、他人にここまで優しくされたことがなかったのと、ちーさんの匂いが石鹸のいい匂いだったのと、『気持ちわるいの、ぜんぶ出してください……』の一言に、今までにないくらいおちんちんがガチンガチンになってしまった自分があまりにも情けなかったからだ。

     ◇

 「ありがとう、ちーさん……もう、大丈夫だよ……」
 涙と勃起が収まったところで、俺は上体を起こす。辺り一面、ゲロに塗れていた。俺はまた倒れそうになったが、ちーさんがなんとか俺の体を支えてくれた。
 「ほ、ほんとうに、大丈夫ですか?」
 ちーさんは俺が突如としてゲロを吐いたのに錯乱したのか、髪が少しばかり乱れていた。その乱れた髪と髪の間から、涙で滲んだ大きな瞳が上目遣いでこちらを覗いている。あの占いらしき召喚術の最中にみた、狂気にとりつかれた目とは打って変わって、ちーさんの濡れそぼる瞳は見目麗しき少女の瞳に相違いなかった。上気した顔はあどげなさを孕みつつも艶があって美しい。
 むく、ムクムク。
 一度は沈静したと思われた我が息子がオブラートに包まれた鎌首を再びもたげはじめる。
 ええい、落ちつかんか!
 しかしですぜ旦那。目の前にこんなにもかわいらしい女の子がいるんですよ。あっしゃ、たまりませんよ!
 いかん。なんかもう息子が俺に喋りかける幻聴が。
 幻聴なんかじゃありませんぜ。さぁ、旦那。今が空前絶後の番狂わせ。ここで、あっしをグイグイ~っと!
 貴様、いったい何を考えている!
 言わせねぇでくだせぇよ、旦那。わかってるでしょう? その当座、昼も箪笥の環が鳴りってな具合ですよ。何よりも傍が毒だと医者がいうんですよ!?
 こ、この阿呆! そういうのはだな、結婚した男女が営むべき所業であってな……。
 な~にを紳士ぶってやがるんですかい!? それを望んでたんじゃないんですか? それに、この状況。据え膳食わぬはなんとやらでっせ!
 なにが据え膳じゃ! 据えられてすらおらんわい!
 「む、室戸さん? 大丈夫、ですか?」
 そのとき、俺はやっと気がついた。ちーさんが俺の右腕を抱きしめているということに。
 あれ? いつの間に?
 そういえば俺が上体を起こすとき、ちーさんはフラフラな俺を支えるために俺の右腕を抱きしめてくれたような……。
 にしても、マズイ。これは非常にマズイ!
 ちーさんの、上目遣い。乱れた髪。汗ばんだ肌。上気した頬。腕の感触。肌のぬくもり。濡れた瞳。かすかな吐息。柔らかい小さな二つの丘。
 むすこの かたくなる! こうかは ばつぐんだ!
 ムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムクムク!!
 「うぅ……!」
 俺はうめき声をわざとあげて、またもやうずくまる。そしてゲロを吐くふりをしながら、スカラのかかった状態の息子にルカニをかけようとした。しかしMPが足りない!
 えぇい! 鎮まれい、鎮まらんか!
 旦那ぁ! ここいらで一つブイブイいわせてやりやしょうぜぇ! ヒャッハー!
 ちーさんはそんな淫らな人ではないのだ! むしろ真逆! 純粋無垢なうえに、今でも心のどこかでコウノトリが赤ちゃんを運んできてくれると信じているのだぞ! たぶん!
 旦那の勝手なイメージをちーさんに押し付けねぇでくだせぇよ!
 「大丈夫ですか!? 大丈夫ですか、室戸さん!」
 ちーさんは俺が再び嘔吐するのだろうと勘違いして、背中をやさしくさすってくれる。その小さくも暖かい指よ!
 いいでしょ旦那! もう充分がんばりやしたって。さぁ、彼女の抱いてしまうと壊れてしまいそうな細い体にルパンダイブでっせ!
 ……ふざけるなよ、貴様の思い通りなってたまるものかよ。お前は息子で、俺がこの体の主人だ! お前の言いなりになど、死んでもならん!
 だ、旦那……なにしようってんですかい? ……ま、まさか! よしなせい! 旦那!
 貴様のいいなりになるなんてナンセンスだ! お前にいい思いはさせない。これからも俺とともに童貞という名の地獄につきあってもらおう!
 じ、自分の吐いたゲロを使って……!? ダメだ! ゲロの匂いとそれによって誘発される嘔吐感に自爆するだけでっせ!?
 ちーさんの俺に対する人間としての評価がダメになるかならないかなんだ! やってみる価値あるだろう!
 もぉいいんですよ! 旦那やめろぉ――――――――――!!
 俺は今まさに目の前にある吐瀉物に鼻を近づけると、


 鼻で勢いよく呼吸する!


 がぁ……!?
 ぐぅわぁあああぁあぁああぁああああぁあああ!!?
 くっせぇえええぇええぇぇぇえええ!!
 うっ……! やっべぇ……! また、込みあげて……!
 ……おぇぇ。
 オロロロロロロロロロロロロロロ。
 俺はマーライオンのごとくゲロを盛大に噴射する。喉を通る吐瀉物の不快感も相まって、息子はしずしずと小さくなっていく。
 くくく……旦那……あっしゃ四天王の中でも最弱の一人……。今にみてなせぇな……必ず、現実の女とつきあってもらいやすからね……色んな意味で……!
 息子は下品極まりない意味不明な断末魔を残して、完全にしぼんだ。


第十六話:もしもこれが現実ならば
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