来し方行く末、あなたと共に! 第十七話

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この物語は、主人公・室戸(むろと)がループを脱出するために、
アニメやマンガの知識を駆使して脱出しようと試みる物語。
暇つぶしに読んでいただけたらこれ幸い。


プロローグ:はじまりは夕暮れと共に・ちーさんの視点


第十六話:もしもこれが現実ならば
第十八話:タイムリープ論、そして映画の話



第十七話:もうタイムリープには気づいてる


 ちーさんは俺と一緒に吐瀉物を片付けてくれている。最初は、これをやらせるのはあまりに申し訳がないと思うと同時に、もしかしたらこれにはあまり意味が無いと思って断ったのだが、ちーさんはなかなか折れることを知らず、結局のところ俺はちーさんの好意に甘える結果となってしまった。
 吐瀉物を完全に片付け終わり、仕上げとして部室中にまんべんなく消臭剤をふりまく。そして、ゴミ袋を焼却炉へともっていくと、トイレへ行って口をゆすぎ、自動販売機でアクエリオンを二本買ってから、部室へと戻る。
 「おまたせ、ちーさん」
 「お疲れ様です」
 「今日は……すまなかった。いくら感謝しても足りないくらいだよ。はい、これ」
 「あ、ジュース……いいんですか?」
 「もちろんだよ。むしろ、これだけじゃ申し訳ないぐらいだ。でも今はこれぐらいしかできないから……せめてもの感謝の印として、受け取っておくれ」
 「で、では……すみません」
 ちーさんはアクエリオンを受け取ると、それを両手で持ちながらコクコクと飲みはじめた。なんだか、小動物が哺乳瓶をがんばって吸っているようにも見える。
 俺も喉が乾いていたので、アクエリオンのふたを開けると、一気にそれを飲み干す。
 「す、すごいですね、室戸さん。500ミリリットルのジュースを一瞬で飲みあげるなんて……」
 「ちょっと喉が乾いてたからね。あ、ちーさんはゆっくり飲んでくれよ」
 「はい。そうします」
 「うーん……それにしても、どうすればいいかな」
 「どうしましたか?」
 「ちーさんに今日のお礼がもっとしたいんだが……何がいいのかわからなくてな」
 「い、いえ! 心配しなくても大丈夫ですよ。ジュースをおごってもらっただけでも、感謝のおキモチは十二分に伝わりましたから」
 「しかしね。それだけだとどうにも俺の気が晴れないんだよ」
 「そんな、そこまで気にしなくても……」
 「お願いだよ、ちーさん」
 「そ、そういわれても……」
 「頼む。ちーさんのためだったら、何でもするからさ」
 「…………ほ、本当ですか?」
 「えっ?」
 「本当に、何でもしてくれますか?」
 「もちろんさ、男に二言はない」
 「じゃ、じゃあ……その、あの、えと……あ、明日、え、えええ、映画を……」
 「うん?」
 「映画を、いっしょ……、……」
 「すまない。声が小さくて聞こえなかった。もう一回いってくれ」
 「あ、明日! 映画を、いっしょに、見に行きませんか……!」
 「映画? それでいい……」
 の? と問おうとした瞬間、疑問が頭に浮かんだ。
 俺は妹とよくいっしょになって映画館へ行った。正確にいえば、俺が部屋に引きこもってると、妹が「ずっとおうちにいるのは体に悪いから」といって、俺を無理やり引きずって映画館へと向かうことが多かった。その際、妹はカップルデーの日を狙って映画館へ直行するのだが、「妹はお金を節約する術に長けている。今まで親から預けられた通帳の管理を妹に任せておいた賜物だな」ぐらいにしか思わなかった。
 けれど。映画館って、普通に考えたら、一人で行く人もいれば、友人たちと連れ立って行くときもあるだろう。
 そして何より、仲睦まじい男女とも。
 ……あれ? あれれ? おっかしーな。これって……うん? はっはっは。いやいや。まさかまさか。せやかて工藤。これって、ねぇ? もしかして、ねぇ? いや、ありえんって。こんな俺みたいなむさ苦しくて胡散臭い男なんかと。
 しかし。これがもし。俺の自意識過剰でもなんでもないのであれば。
 「……ちーさん。それってまさか、デー」
 「うわぁあああ! すいません、すいません! 調子こいてました! すいません! 忘れて下さい何でもないです死んできます!!」
 「ま、待ってくれちーさん!」
 今まさにどこかへと駆け出そうとするちーさんの腕を掴む。
 「は、離してください! これ以上、私に生き恥を晒させる気ですか!」
 「なにもそんな、恥ずべきことではないと思うけど……」
 「む、室戸さんにはわかりませんよ! もう恥ずかしさで爆発しそうです……いっそこうなってしまっては、黒歴史を史実に刻む前に、この腹を真一文字にかっさばいて昇天したほうがマシです! むしろ殺してください! 介錯は室戸さんに任せました!」
 「待ってくれ! 落ち着いてくれ! 俺はよく妹と映画を見に行ってるぞ!」
 「だからなんだってんですか~!」
 「行こう! 一緒に!」
 「ひぇえええん……えっ……?」
 「映画! 見ようよ!」
 「……ほ……ホントですか!?」
 「ちょうど暇してたところなんだよ」
 「うわぁ……! い、いいんですか!? 私なんかと、映画なんて!」
 「それをいうのはこっちのセリフだ。俺なんかと映画なんて、いいのかい?」
 「と、とんでもありません! 私、とっても嬉しいです!」
 「俺もだよ」
 ニッコリと、俺は精一杯の作り笑顔を見せる。


 ちーさん、でもそれは明日が来ればの話なんだ。


 俺は部室の壁がけ時計に目を移す。
 時刻は十八時三十四分。
 ケータイを開く。すると、消したはずのヤツらのメールアドレスと、直したはずの『姉』の誤表がもとに戻っていた。机の上のダンボール箱にも、白い便箋が破る以前の状態へ戻っていた。
 俺は目まぐるしい譫妄の世界を網膜に焼き付けてきた。あんな世界があるのなら、もう何が起こってもおかしくないだろう。だから、吐瀉物を片付けてる間に気がついたことも、無理にでも受け入れてみせる。


 おそらくだが、俺はタイムリープに巻き込まれた。


第十八話:タイムリープ論、そして映画の話
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