来し方行く末、あなたと共に! 第十八話

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この物語は、主人公・室戸(むろと)がループを脱出するために、
アニメやマンガの知識を駆使して脱出しようと試みる物語。
暇つぶしに読んでいただけたらこれ幸い。


プロローグ:はじまりは夕暮れと共に・ちーさんの視点


第十七話:もうタイムリープには気づいてる
第十九話:再会


第十八話:タイムリープ論、そして映画の話


 これは推論に過ぎない。だが、もしもタイムリープが発生しているのであれば、俺が部室にいることも、壁がけ時計の針が巻き戻っていることも、白い便箋が破れてないのも、消したはずのメールアドレスと直したはずの『姉貴』の文字が元に戻っているのも、全て説明できる。それにウサギ人間のいっていた『君はこれから同じ時間を何度も何度もくり返す』という言葉を信じるならば尚更だ。
 落ち着いて、このタイムリープについて思考を巡らす。俺は勉強が不得手だ。だが、漫画やアニメ、ゲームやライトノベルの知識量は同い年の奴には負けないという自負がある。俺にはこれしかない。
 だから、この愚にもつかないこの知識で、眼の前の事象を刻み、解体し、分析し、理解してやる。
 俺は時間を繰り返している―――――――――――つまり、タイムリープしているのであれば、遡行が可能である限界まで、この場合はちーさんが占いのような儀式を終えて俺がゲロを吐くところまでだろう、俺はそこまで巻き戻ることができる。
 そのタイムリープが起きるためのスイッチは二通り考えられる。ひとつはまや姉と遭遇すること。あるいは冗談でいった俺の誕生した時間、つまりは今日の十九時五十八分をむかえること。
 これら二つを同時にやらねばループは発生しないのではないかとも考えられるが、それはないだろうと予測する。俺はアニメなどでタイムリープを扱う作品を散見してきたが、ループはけっこう単純なスイッチで発生していたからだ。例えば、ある時刻を超えると勝手にタイムリープしてしまうとか、死んでしまうとループが始まってしまうなど。『時を股にかける少女』ではなんかゴロゴロ転がるだけでタイムリープしてたな。とにかく、タイムリープはそう複雑ではない。だからどちらかの条件を満たせばタイムリープが発動する。
 今のところ考えうることができるのはこれぐらいだけだ。なぜループが発生してしまったのか、なぜまや姉がこの世界にいるのか、なぜ妹は姿を消してしまったのか、あの譫妄の世界とはいったい何だったのか、わからないことがあまりにも多い。問題を解決するためには情報があまりに少なすぎる。
 クソッタレ。最悪の事態だ。
 普通、誰しもタイムリープに巻き込まれたら、嬉々として踊りだすだろう。
 タイムリープ内では例え罪を犯したとて、ループ後は全てがリセットされて、また一からやり直しとなる。つまり、どんなに世間の公序良俗に反する行いをしても「いい」のだ。盗んだバイクでポリスとカーチェイスするもよし、大文字山のふもとで赤い着物をきた幼女を追いかけ回すもよし。
 悪行三昧に身をやつさずとも、今まで実行して来なかった夢を実現するのもまた一興である。好きな女の子に、恋人になる許しを得るまで何度も告白してみるのもいいだろう、時間がなくて見れなかった小説やアニメを全て視聴するのもいいだろう。
 しかし、しかしである。俺はそれ以上に、このタイムリープから抜け出したいと願っている。なぜなら、このままループから脱出しなければ、永遠に明日は来ないまま、この数時間を繰り返し続けるハメになるだろう。
 そうなってしまっては、明日発売されるはずの『True Heart2 AnotherDays』が手に入らないということではないか!
 それだけはあってはならない。新しく生まれ変わったまや姉のご尊顔をようやく拝めるというのに。今までこれが発売されるのを生きる糧として、微塵の価値もない命を生きながらえてきたというのに!


 だから俺は、このループを脱出するためだったら、例え行きたくない映画にも行くしかないではないか。


 タイムリープが発生した原因はどうでもよくないが、それを解き明かすのが第一目標ではない。重要なのは、このタイムリープから脱出すること。それだけを考えて行動するのなら、どうすればいいのか。今から考える理論は屁理屈のオンパレードではあるが、それに頼るほかない。
 俺はタイムリープの始点、ちーさんに占ってもらったときのことを思い出す。
 このループが発生した原因が、もしもちーさんの占いらしき召喚術にあるとすれば、ちーさんが今の現状に不満をもっているからタイムリープが引き起こっているのではないか? と俺は推測する。
 タイムリープを扱う作品で、充足されない願望を根にループが発生してしまう作品をいくつか目にしてきた。『エンドレスエイト』はまさにそのいい例だろう。この場合、ループを解決するためにすべきことは明らかで、要は願望を充足させてしまえばループは終わる。
 だから今は、ちーさんが映画に行きたいというのであれば、行ってやろうと約束する他あるまい。すべてはちーさんの願望を満たしてやり、『True Heart2 AnotherDays』へと到達するために。ひいては二次元のために。
 しからばちーさんと映画館に行くというのは、決して二次元を裏切る行為ではないのだ。愛する二次元のためにこうしたまでだ。
 ループが発生していなかったら、俺はちーさんの腕を掴まずに、どこかへと野放しにしてしまっただろう。そもそも正常な俺であったなら、何でもするなどと、そんな戯けたことをぬかすわけがない。
 そもそもちーさんが俺を映画に誘ってくれたのは、デートのためではないはずだ。ちーさんが俺に好意をもって映画に誘ってくれたと思うのはうぬぼれでしかない。不器量な俺が女の子からデートのお誘いなぞ毛頭ありえない話なのだ。では、なぜちーさんは俺と映画に行きたいといったのだろうか? 恐らく、俺がお礼をしたいとしつこく迫ったものだから、ちーさんは咄嗟に映画館へ行きたいと口に出してしまったに違いない。それで、単なる思いつきであるはずの映画へ行きたいという言動に対し、俺が勝手に勘違いしてデートだのなんだのっていい出すものだから、『うわっ、何こいつキモッ! 鏡みろよ! あとお前がいま使ってるオナホールをオブジェだっていい張って部屋に飾ってんの知ってるからな! です!!』と思ったちーさんはこの場から逃げだそうとしたのだろう。あーあ、イケメンに生まれたかったな!
 「……ですか? 室戸さん」
 「うん? どうしたの?」
 おっと。考えに集中し過ぎてちーさんの話を耳にしていなかった。
 「ですから、『ピラニア3D』と『パシフィック・リム』だったら、どっちを見たいですか?」
 「どっちでもいいよ。ちーさんの好きなほうで」
 「じゃあ、じゃあ! どっちもっていう選択肢はありますか!?」
 「ああ、もちろんだよ」
 「うっはー! さっすが室戸さん! 話がわかるお方です!」
 「そうかな」
 「いやー、『ピラニア3D』はジェームズの野郎が「こんな3Dの使い方、僕は認めません」みたいなこといってましたけど、何をいってやがるんだって話ですよね! あの人だって『殺人魚フライングキラー』作ってたじゃないですか! まぁ、あれはイヤイヤだったらしいですけど! とにかく、キャメロンのいうことを気にするこたぁないんですよ! もう見ましょう見ましょう! 3Dでおっぱいがブルンブルン揺れるさまをこの目に焼き付けましょう!」
 「ち、ちーさん……?」
 「それに『パシフィック・リム』ですよ! ギレルモ・デル・トロですよ! 『パンズ・ラビリンス』や『ヘルボーイ』や『ミミック』や『ブレイド2』の! 私たちのトトロですよ! ロケットパンチですよ! エルボーロケット、なうですよ! ペガサス流星拳ですよ! 折れないタンカーなんですよ!」
 「ちーさん、少し落ち着いて!」
 「これが落ち着いていられますかって!」
 なんだ、どうした? ちーさんのテンションがおかしい。
 「あの……ちーさんは、映画がすごく好きなのかな?」
 「はい! ちなみにお気に入りの映画は『どん底』と『死亡遊戯』と『ザ・フライ』と『イレイザーヘッド』と『ファントム・オブ・パラダイス』です! 最近見た映画で好きなのは『ブルーバレンタイン』です! 好きな俳優はジョー・ペシとジョシュ・ブローリンとフィリップ・シーモア・ホフマンとジャック・ニコルソンとクリント・イーストウッドとサイモン・ペッグとニック・フロストとイーライ・ロスとジェシー・アイゼンバーグとブルース・リーとユン・ピョウです! ビル・マーレイもいいですよね! サシャ・バロン・コーエンも! あ、ジム・キャリーの顔の柔らかさも好きです! デイン・デハーンにはこれからの活躍に期待してます! 好きな映画監督はクエンティン・タランティーノと原恵一と黒澤明とエド・ウッドとサム・ペキンパーと園子温とデヴィット・リンチとデヴィット・クローネンバーグとマーティン・スコセッシです! 最近、『霧島、部活やめるってよ』を見て、映画秘宝をたたき落としたやつとひろきくんの彼女をぶっ殺してやりたいって思いました!」
 どうやらちーさんはとんでもない映画好きらしい。
 「室戸さんは好きな映画監督とかいますか!?」
 「えっ……と、ティム・バートン、かな」
 この名前であってるだろうか? 確かこの人は、『マーズ・アタック』や『バットマン』の監督だったはずだ。俺は映画を見るのが好きなだけなので、俳優や監督の名前はほとんど憶えていない。辛うじてジャック・ニコルソンがわかるぐらいだ。あとは原恵一もわかる。原恵一という人は『オトナ帝国の逆襲』というアニメ映画を監督した人だ。俺はこの作品をリアルタイムで見れたことを今でも嬉しく思っている。それぐらい感動的な映画だった。確か、あのとき……誰かといっしょにこの映画を見たはずだ。妹だったか? まぁそんなことはどうでもいい。今はちーさんとの会話に集中しなくては。
 「ティム・バートンですか! 『マーズ・アタック』とか『エド・ウッド』、『ビートルジュース』の人ですね!」
 な、なんだそれは? 『マーズ・アタック』は『由々しき』でネタにされてたから辛うじてわかるが、それ以外はちんぷんかんぷんである。
 「好きな俳優さんは誰ですか?」
 「あー……そうだ、シュワちゃん。シュワルツェ・ネッガー」
 「淀川長治さんと一緒にお風呂に入ったお方がお好き? 結構。ではますます好きになりますよ。次に、好きな映画は何でしょうか?」
 「一番気に入ってるのは……『コマンドー』だ」
 「『コマンドー』とはまた乙なものが好きですね! シュワちゃん好きのたいていの人なら『ターミネーター』とか『トータル・リコール』とか『プレデター』と答えそうなものを! 『コマンドー』ですか! いやぁ、室戸さん、お目が高い! そうなんですよ、あれこそシュワちゃん映画の集大成といっても過言ではありません! なんたってシュワちゃん映画の中でも『コマンドー』は最高に超おバカ映画なんですね! だからこそシュワちゃんの魅力がたっぷりで大好きなんです! あ、時間がありましたら、今から『コマンドー』見ませんか!?」
 「えっ? いいけど……見れるの?」
 「はい! DVDが部室にあるんですよ」
 「そ、そうなのかい?」
 「たぶんですけど、アニ研部の部室にあるDVDと同じぐらいあると思います」
 「相当な量だね、そりゃ……」
 「BDも、少しだけだったらありますよ」
 俺はちーさんがこんなにも興奮している姿をはじめてみた。映画を語るちーさんの姿は本当に嬉しそうにみえる。
 ……俺も、アニメについて話すときはこんな感じになるのだろうか? うむむ、少し態度を改善したほうがいいのかもしれない。


第十九話:再会
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